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東京地方裁判所 平成10年(ワ)14652号 判決

原告

甲野太郎

訴訟代理人弁護士

貞友義典

安冨潔

小林喜浩

被告

東京都

代表者知事

石原慎太郎

訴訟指定代理人

和久井孝太郎

外三名

被告

日本テレビ放送網株式会社

代表者代表取締役

氏家一郎

訴訟代理人弁護士

大矢勝美

谷本昇隆

被告

株式会社東京放送

代表者代表取締役

砂原幸雄

訴訟代理人弁護士

古口章

桑原育朗

被告

全国朝日放送株式会社

代表者代表取締役

伊藤邦男

訴訟代理人弁護士

秋山幹男

主文

一  被告株式会社東京放送は、原告に対し、五〇万円及びこれに対する平成一〇年七月一一日から完済まで年五分の割合による金銭を支払え。

二  原告の被告株式会社東京放送に対するその余の請求を棄却する。

三  原告の被告東京都、被告日本テレビ放送網株式会社及び被告全国朝日放送株式会社に対する請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用については、

1  原告と被告株式会社東京放送との間において生じた分については、これを二〇分し、その一を被告株式会社東京放送の負担とし、その余を原告の負担とし、

2  原告と被告東京都、被告株式会社日本テレビ放送網株式会社及び被告全国朝日放送株式会社との間において生じた分については、全部原告の負担とする。

五  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告東京都は、原告に対し、一〇〇〇万円及びこれに対する平成一〇年七月一一日から完済まで年五分の割合による金銭を支払え。

2  被告日本テレビ放送網株式会社(以下「被告日本テレビ」という)は、原告に対し、二〇〇〇万円及びこれに対する平成一〇年七月一一日から完済まで年五分の割合による金銭を支払え。

3  被告株式会社東京放送(以下「被告東京放送」という)は、原告に対し、一〇〇〇万円及びこれに対する平成一〇年七月一一日から完済まで年五分の割合による金銭を支払え。

4  被告全国朝日放送株式会社(以下「被告朝日放送」という)は、原告に対し、一〇〇〇万円及びこれに対する平成一〇年七月一一日から完済まで年五分の割合による金銭を支払え。

5  訴訟費用は被告らの負担とする。

6  1ないし4項につき仮執行宣言

二  被告東京都

1  原告の被告東京都に対する請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  仮執行免脱宣言

三  被告日本テレビ

1  原告の被告日本テレビに対する請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

四  被告東京放送

1  原告の被告東京放送に対する請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

五  被告朝日放送

1  原告の被告朝日放送に対する請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  事案の概要

本件は、偽造有価証券行使・詐欺未遂事件について、捜査機関が被疑事実や被疑者の氏名等について広報を行い、また、テレビ報道機関においても被疑者の氏名を報道し、その映像を放映したことに関し、右事件の被疑者として逮捕、勾留され、後に不起訴処分となった原告が、被告東京都に対しては、広報による名誉毀損を、報道機関に対しては、報道による名誉毀損、肖像権侵害及びプライバシー侵害を理由として、損害賠償を請求した事案である。

一  基礎となる事実

(証拠によって認定した事実については、認定に供した証拠を括弧内に掲記する)

1  原告の地位〔甲一八号証〕

原告は、第二東京弁護士会所属の弁護士であったが、平成九年三月一四日に同会から除名処分を受けた者であり、現在は宇宙科学に関するイベントの企画等を業とする株式会社マルコ・ポーロ(旧商号株式会社スペース・ワン)の代表取締役であると共に、不動産業を営む有限会社ブルータスの顧問も行っている者である。

なお、平成一〇年五月当時、乙川一夫(以下「乙川」という)は、有限会社ブルータスの代表者であり、丙沢二夫(以下「丙沢」という)は、有限会社ブルータスの従業員であった。

2  本件事件の経過〔甲一八号証、乙一号証、弁論の全趣旨〕

(一) 平成一〇年五月一日午後七時ころ、東京都港区新橋の金券ショップ株式会社大黒屋(以下「大黒屋」という)に日本信販株式会社(以下「日本信販」という)発行の額面一万円の商品券(ニコスギフトカード)を偽造したもの(以下「本件偽造商品券」という)約五〇〇枚が持ち込まれた(以下、本件偽造商品券の行使等に関連する一連の事件を「本件事件」という)。大黒屋は、同日午後五時三〇分ころに本件偽造商品券を換金できないかとの問い合わせを受けていたことから、日本信販の社員を待機させていたところ、右社員は持ち込まれた商品券が偽造であると確認したことから、大黒屋店長が一一〇番通報するとともに、その場から逃走しようとした本件偽造商品券を持ち込んだ丙沢を右社員が現行犯逮捕した。

そのころ、大黒屋前の路上に停めた乗用車に乗車して丙沢が戻るのを待っていた原告は、右社員から商品券が偽造であることを聞くと、右社員に免許証を手渡した上、タクシーでその場を立ち去った。

一方、同じ乗用車に乗車していた乙川は、一一〇番通報により現場に到着した警視庁愛宕警察署員に現行犯逮捕された。

(二) 同日午後九時ころ、原告が警視庁愛宕警察署(以下「愛宕署」という)に出頭してきたことから、愛宕署員が事情聴取をし、午後一一時五分ころ、原告は、偽造有価証券行使・詐欺未遂事件の被疑者として緊急逮捕された。

愛宕署員は、翌二日、原告、丙沢及び乙川(以下「原告ら三名」という)の取調べを行い、さらに翌三日、愛宕署長が原告ら三名を東京地方検察庁検察官に送致した。そして、これを受けた東京地方検察庁検察官は、同日、東京地方裁判所裁判官に対し原告ら三名の勾留を請求し、翌四日、勾留状が発付され、原告ら三名は、同日、勾留された。なお、この際、原告ら三名について、接見等禁止の決定もされた。

(三) その後、本件偽造商品券を原告に売却した側の人物である丁山こと丁山(以下「丁山」という)及び戊田一郎こと戊田(以下「戊田」という)が、九日と一〇日に相次いで逮捕されて取調べを受けた。そして、一二日、愛宕署内に警視庁捜査二課、捜査四課及び愛宕署の共同捜査本部(以下「共同捜査本部」という)が開設され、一四日、戊田らへの売主とされる山川三夫(以下「山川」という)が全国に指名手配された。

(四) また、五月一二日、原告ら三名について、一〇日間の勾留延長が発令されたが、同月一五日、接見等禁止が全部解除され、同日、丙沢及び乙川が、一八日には原告がそれぞれ処分保留のまま釈放された。なお、原告ら三名の終局処分は、嫌疑不十分による不起訴であった。

3  警視庁による報道機関への広報〔甲七号証、乙一号証〕

平成一〇年五月一四日午前一〇時二〇分ころ、愛宕署副署長が、警視庁丸ノ内署内の第一方面記者クラブに対し、広報文をファックスで送信することにより、本件事件を広報した(以下「本件広報」という)。

本件広報にかかる広報文(以下「本件広報文」という)は、共同捜査本部作成名義のものであり、「元弁護士等による偽造有価証券行使・詐欺未遂被疑者の検挙について」と題し、「愛宕署に設置した共同捜査本部(捜二・捜四・愛宕署)は、本日までに下記被疑者を逮捕するとともに1名を指名手配して追跡捜査中である。」との文言に始まるものである。そして、「記」として、各被疑者の逮捕年月日、罪名(偽造有価証券行使・詐欺未遂)、逮捕被疑者(原告を含む五名)の住居、職業、氏名、年齢及び逮捕被疑者が勾留中であること、指名手配被疑者、被害者、被害金額(未遂)、事件の概要、偽造有価証券の特徴、事件の見通し(捜査中)が記載されたものである。なお、逮捕被疑者の筆頭には原告が掲記され、その職業は「会社役員、(元弁護士)」と記載されている。また「事件の概要」は別紙一のとおりである。

4  被告ら(被告東京都を除く)による報道

被告東京都を除く被告らは、本件事件について、以下のとおりの日時の番組内で、別紙二ないし四記載の内容の報道をした。

(一) 被告日本テレビ(以下まとめて「被告日本テレビによる報道」という)

① 平成一〇年五月一二日午後五時三〇分 「ニュースプラス1」

② 同日 午後五時五七分 「NNNニュースプラス1」

③ 同日 午後一〇時五四分 「NNNきょうの出来事」

④ 平成一〇年五月一三日午前七時「ズームイン朝」

⑤ 平成一〇年五月一四日午前一一時三〇分 「NNNニュースダッシュ」

⑥ 同日 午後三時五〇分 「は〜い夕刊」

(二) 被告東京放送(以下まとめて「被告東京放送による報道」という)

⑦ 平成一〇年五月一三日午後五時五五分 「ニュースの森」

⑧ 平成一〇年五月一四日午前一一時三〇分 「JNNニュース一一三〇」

(三) 被告朝日放送(以下「被告朝日放送による報道」という)

⑨ 平成一〇年五月一四日午後五時「スーパーJチャンネル」

二  争点

本件の主要な争点は、被告東京都による本件広報が、原告の名誉を毀損する違法な公権力の行使として、国家賠償法一条に基づく損害賠償責任を負うものか否か、であり、また、被告東京都を除く被告らによる本件事件の報道が、原告の名誉を毀損し、または原告の肖像権を侵害し、あるいは原告のプライバシー権を侵害する違法なものとして、原告に対する不法行為を構成するか否か、である。

三  争点に対する当事者の主張

1  被告東京都との関係

(原告)

(一) 共同捜査本部の違法行為

(1) 平成一〇年五月一四日、共同捜査本部は、本件事件について、「元弁護士等による偽造有価証券行使・詐欺未遂被疑者の検挙について」と題する書面(甲七号証)を各報道機関に配布し、これを公表した(本件広報)。

右公表を受けたテレビ、新聞等の報道機関は、これに基づき、一斉に「偽造商品券で元弁護士ら逮捕」「詐欺未遂容疑元弁護士逮捕」等の見出しの下にこれを報道した。

(2) 共同捜査本部は、愛宕署刑事課が当初から原告の弁解を受け入れ、原告らをむしろ本件事件における被害者の立場にあるとの心証を形成していたにもかかわらず、漫然と逮捕状請求時の容疑事実をほぼそのまま公表したばかりか、表題に「元弁護士による」などと掲記して報道機関の興味をそそることまでした。

共同捜査本部は、愛宕署刑事課に本件事件における捜査の進捗状況等を確認することなく、逮捕時から二週間も経過していながら捜査結果を全く無視した内容の公表をしたものである。共同捜査本部は、愛宕署での捜査結果を斟酌して公表を差し控えるか、公表する場合でも原告らの弁解を明らかにすべきであった。

(3) なお、原告弁護人は、担当警察官及び担当検察官との打合せを踏まえて、平成一〇年五月一三日、東京地方裁判所裁判官に対し、接見禁止全面解除の申立てをし、これに基づいて、同月一五日、同裁判所裁判官により接見等禁止を全面解除する旨の決定がされた。

裁判官が右解除決定をするに当たっては、必ず担当検察官に意見を求めているのであり、検察官の意見が裁判所に伝達されたのは、同月一三日又は一四日であると考えられるところであるが、共同捜査本部は、正にその一四日に本件広報をした。また、一五日には乙川及び丙沢が、一八日には原告が釈放されているのである。

このように共同捜査本部は、担当検定官が接見禁止の必要がなく、また、釈放しても構わないと判断しており、担当警察官等も近々釈放すると認識している正にその時期に、原告らを犯罪を犯して逮捕された者として公表したものである。犯罪の成立が証明されず、間近に釈放が予想される原告については、その名誉を守るべく実名を公表すべきではなかった。

右の点からも共同捜査本部の本件広報は、違法なものである。

(二) 被告東京都の責任

(1) 共同捜査本部は、本件事件を本件広報のような内容で公表すれば、テレビ・新聞等に報道され、これによって多くの人々が原告らが犯罪行為を行ったと速断することを十分認識しながら右公表を行ったものであり、これにより原告はその名誉を毀損された。

(2) 共同捜査本部による本件広報は、公権力の行使にあたる公務員である警察官がその職務を行うにつき過失により違法に原告に損害を与えたものであるから、被告東京都は、国家賠償法一条一項に基づき、原告に対し、損害賠償責任を負う。

(三) 損害

本件広報により、原告の名誉は著しく毀損され、これを慰謝するに足りる金銭は一〇〇〇万円が相当である。

(被告東京都)

(一) 本件広報は、犯罪行為という公共の利害に関する事実について、専ら公益を図る目的で行われたものであり、その内容も捜査結果に基づくもので、誤りのないものであるから、本件広報には違法性がない。

(二) また、原告ら三名は、平成一〇年五月一日に逮捕され、四日には勾留されたもので、この時点において、原告ら三名に偽造有価証券行使・詐欺未遂罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があったことは明らかであり、一三日には勾留が延長されていることから、一四日の本件広報の時点において、原告ら三名に嫌疑がなかったとは到底いえない。また、勾留延長請求をした翌日に検察官が原告ら三名について嫌疑なしとか釈放しても構わないなどと判断していたとは到底考えられないし、一四日には、本件事件の共犯者と認められた山川を全国に指名手配しているのであって、この点からも、本件広報の時点で捜査官が原告ら三名を近々に釈放するなどと考えていなかったことは明らかである。

さらに、接見禁止解除決定がなされたからといって、嫌疑がないとはいえないし、原告ら三名の釈放は処分保留のままされたものであって、釈放によっても嫌疑がなくなったとはいえない。

したがって、本件広報の時点において、原告には、少なくとも勾留状が発付されるに足りる嫌疑があったことは明らかであり、この点からも、本件広報に違法性はない。

なお、暴力団や偽造グループが関与していると認められた本件事件の悪質性、計画性、組識性、社会に与える影響、原告らの社会的地位などを総合的に考えれば、本件事件は実名で広報すべき事件であり、実名を伏せるべきであったとの原告の主張は失当である。

2  被告日本テレビとの関係

(原告)

(一) 被告日本テレビの違法行為

(1) 名誉毀損

被告日本テレビによる報道は、単に原告が逮捕勾留されたという事実にとどまらず、原告が元弁護士であり、弁護士会から除名処分を受けたことを強調するなど原告が犯人であると印象付けるに十分な報道をした。

原告は、事実として何ら犯罪を犯していなかったのであるから、被告日本テレビによる右報道は、原告の名誉を傷つけるものである。

なお、被告日本テレビは、警察の記者発表前に報道しようとしたのであるから、可能な調査をして報道内容の真偽を確認して被報道者の名誉を侵害しないよう注意すべきであったし、記者発表後でも、否認をしている原告の弁解を弁護人に問い合わせるべきであったのに、右のような調査を尽くしていない。また、被告日本デレビによる報道①ないし④は警察の記者発表前の報道であるところ、これは原告が逮捕されてから一一日後のことであり、その時点で報道しなければならない緊急性は全くなかったものである。

(2) 肖像権侵害

被告日本テレビによる報道は、過去に別の目的で撮影を許諾した原告の映像を、原告の許可なくして用いた。

したがって、この映像の目的外・許諾外使用は、原告の肖像権を侵害するものである。

(3) プライバシー侵害

被告日本テレビによる報道は、本件事件とは無関係な原告が元弁護士であるとの経歴及び民事事件をめぐる懲戒申立てと弁護士会による除名処分という事実を強調して報道した。

したがって、右報道は原告のプライバシーを侵害するものである。

(二) 損害

被告日本テレビによる報道により、原告の名前やその容貌は「元弁護士による犯罪」として多くの市民に印象付けられ、原告は友人知人との付き合いに支障を来したばかりか、兄弟の職場における信用問題にまで影響を及ぼした。

原告の名誉、プライバシー及び肖像権は著しく侵害され、これを慰謝するに足りる金銭は二〇〇〇万円が相当である。

(被告日本テレビ)

(一) 名誉毀損について

被告日本テレビによる放送は、あたかも犯罪者であるかのような報道をしたものではない。

また、被告日本テレビによる放送は、公共の利害に関する事項について、専ら公益を図る目的でなしたものであり、不法行為とはならない。

(二) 肖像権侵害について

肖像については、何人もみだりに公表されない利益を有し、かかる利益は尊重されなければならないが、正当な目的のための肖像の公表は許されるものである。

また、本件以前に事件とは無関係に撮影された映像であっても、その使用が表現の自由の行使として社会的に相当と認められる限り、違法性を阻却されるべきである。そして、被告日本テレビは、刑事被疑事件について逮捕された被疑者である原告の映像を報道するために本件以前に撮影された映像を使用したものであり、その映像の内容はことさら人権を侵害するようなものではないから、表現の自由の行使として社会的に相当と認められる範囲内にあるというべきである。

(三) プライバシー侵害について

原告が弁護士であったこと及び第二東京弁護士会を除名されたとの事実は、本件事件とは無関係ではなく、また、社会の正当な関心事を報道することを使命の一つとしている報道機関としては、偽造有価証券行使・詐欺未遂の被疑事実で逮捕された被疑者である原告が、基本的人権を擁護し社会正義を実現することを使命とし法律の専門家である弁護士の経験を有していること等は、報道してしかるべき事実である。

3  被告東京放送との関係

(原告)

(一) 被告東京放送の違法行為

(1) 名誉毀損

被告東京放送による報道は、原告らが一定の嫌疑で逮捕されている事実を伝えたにとどまらず、原告が元弁護士であり、弁護士会から除名処分を受けたことを強調するなどして、原告らが真犯人であると世間一般に思われるような報道をした。また、被告東京放送は、事実と無関係な原告の隠し取り映像を放映したのであり、このことはさらに原告を犯罪者と印象付けるものである。

したがって、被告東京放送による報道は、原告の名誉を毀損するものである。

なお、被告東京放送は、警察の記者発表前に報道しようとしたのであるから、可能な調査をして報道内容の真偽を確認して被報道者の名誉を侵害しないよう注意すべきであったし、記者発表後でも、否認をしている原告の弁解を弁護人に問い合わせるべきであったのに、右のような調査を尽くしていない。また、被告東京放送による報道⑦は警察の記者発表前の報道であるところ、これは原告が逮捕されてから一二日後のことであり、その時点で報道しなければならない緊急性は全くなかったものである。

(2) 肖像権侵害

さらに、右隠し撮り映像の放映は、原告の肖像権を侵害するものである。

(3) プライバシー侵害

また、被告東京放送による報道は、本件事件と関係のない原告の過去の経歴を強調したものであり、原告のプライバシーを侵害するものである。

(二) 損害

被告東京放送による報道により、原告の名前やその容貌は「元弁護士による犯罪」として多くの市民に印象付けられ、原告は友人知人との付き合いに支障を来したばかりか、兄弟の職場における信用問題にまで影響を及ぼした。

原告の名誉、プライバシー及び肖像権は著しく侵害され、これを慰謝するに足りる金銭は一〇〇〇万円が相当である。

(被告東京放送)

(一) 名誉毀損について

被告東京放送は、原告らが一定の嫌疑で逮捕勾留されている事実を伝えたもので、それ以上に積極的に原告らを真犯人として報道しているわけではない。また、原告の映像を放送したことが原告を真犯人であると印象付けるものではない。

仮に被告東京放送による放送が摘示した事実が真実でなかったとしても、原告が勾留されていることを捜査関係者に確認したこと、その後にこれが本件広報により裏付けられたことから、被告東京放送にはこれが真実であると信じるについて相当な理由がある。

(二) 肖像権侵害について

逮捕された人物について、顔写真その他映像を使用することは、これまで新聞・放送において行ってきたところである。原告の映像を放送することは、原告が捜査当局から犯罪の嫌疑を受けて勾留されていることを報道する上での正当な業務行為に属するものであって、違法性はない。

なお、被告東京放送による報道で使用した映像(以下「本件映像」という)は、平成九年三月ころ、原告が委任者である会社社長から告発を受け、原告が所属する第二東京弁護士会も原告を除名処分にする見込であった等の状況の下、近く事態が事件化して原告が身柄を拘束される可能性も十分予見されたことから、公道上から原告を撮影しておいたものである。被告東京放送報道局社会部出稿責任者においては、本件事件の性質、原告の人的属性等から、原告の映像も報道として基本的な要素をなすものと判断したが、原告は既に身柄を拘束されており、本件事件に関連した原告の映像を撮影することは不可能であったことから、資料映像のデータから検索された右映像を使用したものである。ただし、本件訴訟提起後に改めて映像資料のデータを別の検索方法で検索し直したところ、右映像とは別に、懲戒処分を受けた後に被告東京放送が原告をインタビューしている映像が存在していることが判明した。これは、被告東京放送の社内検索システム上の問題により被告東京放送による放送当時に検索されなかったものであり、当時その存在を認識していれば、当然これを使用していたものであって、被告東京放送は、故意に本件映像を選択して放送したものではない。

(三) プライバシー侵害について

プライバシー侵害の主張については争う。

4  被告朝日放送との関係

(原告)

(一) 被告朝日放送の違法行為

(1) 名誉毀損

被告朝日放送による報道は、三分一〇秒に及ぶ長いものであり、逮捕された原告ら五人を「犯行グループ」と呼んだ上、「容易に換金できるものとみて犯行に及んだ」と憶測に基づいてコメントしたものである。確かに右報道は警察による本件広報後のものではあるが、右広報においても、「容易に換金できるものとみて犯行に及んだ」との事実は発表されておらず、原告は容疑を否認していて、被告朝日放送もそれを認識していたのだから、弁護人に弁解内容を問い合わせるべきであり、それを怠って行った右報道は、原告の名誉を毀損するものである。

(2) 肖像権侵害

被告朝日放送による報道は、実名に加えて原告の顔写真を放送するものであり、原告の肖像権を侵害するものである。

(3) プライバシー侵害

被告朝日放送による報道も、本件事件と関係のない原告の過去の経歴を報道したものであり、原告のプライバシーを侵害するものである。

(二) 損害

被告朝日放送の放送により、原告の名前やその容貌は「元弁護士による犯罪」として、また、偽造を知っていた「犯人」として多くの市民に印象付けられてしまい、原告は、友人知人との付き合いに支障を来したばかりか兄弟の職場における信用問題にまで影響を及ぼした。

原告の名誉、プライバシー及び肖像権は著しく侵害され、これを慰謝するに足りる金銭は一〇〇〇万円が相当である。

(被告朝日放送)

(一) 名誉毀損について

被告朝日放送による報道は、全体として原告らが逮捕された事実を報道したものであり、共同捜査本部による本件広報の域を超えて、原告が偽造有価証券行使・詐欺未遂の犯人であると断定したものではない。

また、被告朝日放送による報道が、原告の名誉を毀損するものであるとしても、右報道は、公共の利害に関する事項につき、専ら公益を図る目的で報道したもので、真実を報道したものまたは真実と信じるに足りる相当な理由があったものであり、違法性を欠き、名誉毀損の不法行為は成立しない。

(1) 公共性・公益性

被告朝日放送による報道は、犯罪行為に関する事実を伝えたものであり、公共の利害に関する事項につき、専ら公益を図るために行われたものであることが明らかである。

また、本件事件は、偽造有価証券行使・詐欺容疑事件であり、その被疑者である原告が法律の専門家であり社会正義を貫くべき弁護士であったことや事件処理にからみ弁護士会を除名されていたことは、本件事件と無関係ではなく、社会の正当な関心事であるというべきである。

(2) 真実性・真実と信ずべき相当の理由

被告朝日放送による報道は、原告が偽造有価証券行使及び詐欺未遂の容疑で逮捕されたことを報道したもので、原告に偽造の認識があった疑いが持たれていることを指摘したものであるところ、逮捕された事実は原告も争っておらず、また、被告東京都の捜査結果や東京簡易裁判所裁判官が原告の逮捕状を発付していること、愛宕署長が原告を東京地方検察庁検察官に送致し、東京地方裁判所裁判官が勾留状を発付していること等から、原告に偽造の認識があった疑いがあったことは明らかである。

また、被告朝日放送による報道は、共同捜査本部の本件広報に基づくものであり、これを真実と信じたことに相当の理由があったものである。

なお、被告朝日放送が原告らを「犯行グループ」としたのは、丁山らが共謀のうえ犯行に及んだとの本件広報があったためであるから、真実を報道したものであり、少なくとも真実と信じるに足りる相当な理由があったものである。

(二) 肖像権侵害について

被告朝日放送による報道は、原告らが逮捕されたことを報道するものであるが、誰が逮捕されたかは、右報道の基本的事実であり、原告の実名を放送することはもとより、その肖像を放映することも、公共の利害に関する事項の報道として違法性がないことは明らかである。なお、被告朝日放送による報道では、テレビ画面右上に、小さく原告の顔写真を掲載したに過ぎない。

(三) プライバシー侵害について

被告朝日放送による報道は、公共の利害に関する事項につき、専ら公益を図るために報道されたものであり、原告が元弁護士であることや事件処理にからみ弁護士会を除名されていたことを報じた部分もこれに関するものであるから、プライバシーを侵害したものではない。

第三  争点に関する判断

一  被告東京都との関係

1(一) 一般に、ある者の名誉を毀損する行為であっても、それが公共の利害に関する事実について、専ら公益を図る目的の下にされた場合において、摘示された事実が真実であることが証明されたときは、その行為は違法性を欠き、不法行為とはならないものというべきであり、また、摘示された事実が真実であることが証明されなくても、その行為者においてその事実が真実であると信じるについて相当な理由があるときには、右行為には故意または過失がなく、不法行為は成立しないものと解するのが相当である。

ところで、前示の基礎となる事実2のとおり、本件広報は、原告ほか四名を偽造有価証券行使・詐欺未遂事件の被疑者として逮捕、勾留した事実及び右事件の概要等を内容とするものであるから、本件広報は、原告の名誉を毀損するものであることは明らかである。しかし、本件広報は、五〇〇枚余りの額面一万円の偽造商品券の行使等に関する犯罪行為についてのものであるから、公共の利害に関する事実についてのものであるということができ、かつ、専ら公益を図る目的の下に行われたものであると推認することができる。

(二)(1)  そこで、以下、本件広報の内容となった事実が真実であるか否か、あるいは、それが真実であると信じるについて相当な理由があったか否かについて検討する。

基礎となる事実及び証拠〔甲七ないし一三号証、乙一号証、証人長尾の証言〕並びに弁論の全趣旨によれば、本件事件についての捜査等の経緯等について、次の事実を認めることができる。

ア 平成一〇年五月一日午後七時ころ、大黒屋に本件偽造商品券が持ち込まれ、乙川及び丙沢が偽造有価証券行使等の疑いで現行犯逮捕された。愛宕署で弁解の機会を与えられた丙沢は、原告から本件偽造商品券を換金するように言われたが、原告は右商品券が偽造とは思っていなかったと思う、などと述べた。

イ 同日午後七時五〇分ころから、愛宕署員は、大黒屋店長及び日本信販社員の事情聴取を行い、同日午後五時三〇分ころに丙沢が大黒屋に来店して、店員にニコスギフトカード様のものを示して、一〇〇〇枚買ってもらえるかなどと質問したこと、右ニコスギフトカード様のものは一見して偽造と判別されたこと、店長が再度の来店を求めたところ、午後五時四五分ころの電話連絡に続いて、午後七時五分ころに丙沢が本件偽造商品券五〇〇枚を持って来店したこと、大黒屋の前の路上に停めた乗用車に乗車していた男(後に原告と判明)に対して日本信販の社員が商品券が偽造であることを告げると、男は自動車運転免許証を手渡した後、タクシーで立ち去ったこと等の事実を認めだ。

ウ 同日午後九時ころ、愛宕署に出頭してきた原告は、愛宕署員に対し、乙川及び丙沢に本件偽造商品券の換金を指示したことは認めたものの、それが偽造されたものとは知らなかったなどと述べた。

右愛宕署員から連絡を受けた愛宕署刑事課長代理であった長尾純逸(以下「長尾」という)は、右の捜査経過から、原告には、偽造有価証券行使・詐欺未遂事件の罪を犯したことを疑うに足りる十分な理由があり、かつ、急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないと判断し、原告を緊急逮捕するように指示した。そして、午後一一時五分ころ、愛宕署員が原告を緊急逮捕し、翌二日午前一時四五分ころ、東京簡易裁判所裁判官に対して原告の逮捕状を請求したところ、同日、右裁判官は、逮捕状を発付した。

エ 同月二日、長尾が原告を取り調べたところ、原告は、前日である一日、丁山からニコスギフトカードの購入を持ちかけられ、ファックスでそのコピーの送信を受けたこと、乙川及び丙沢に右商品券を売ることができるか金券ショップで調査させたこと、丁山から額面一万円の商品券五〇〇枚を示されて本物だと思い、これを三〇〇〇万円で購入したこと、その際、即金で二〇〇〇万円を支払い、一〇〇〇万円は連休明けに支払うことにしたこと、右購入代金の領収書は山川名義の額面が一五〇〇万円のものであったこと、乙川及び丙沢とともに右ニコスギフトカードを大黒屋に持っていったところ、偽造であることを指摘され、自動車運転免許証を手渡して現場から立ち去ったこと、その後丁山に抗議したところ、丁山が本物に間違いないなどと話したので一緒に愛宕署に出頭したこと、等を供述した。

オ 同日、愛宕署員が丙沢を取り調べたところ、丙沢は、一日午後二時ころ、ニコスギフトカードのコピーがファックス送信され、原告から「これ金になるのかな、儲かるのかな」などと聞かれたこと、原告の指示により、現金を丁山の事務所に持参したこと、等を供述した。

また、同日、愛宕署員が乙川を取り調べたところ、一日午後一時ころ、原告からニコスギフトカードのパンフレットを取り寄せるよう依頼されたこと、その後丁山の事務所で丁山から一枚一万円のニコスギフトカード五〇〇〇枚を三〇〇〇万円で買い取り、二〇〇〇万円は現金で支払って、一〇〇〇万円は後日支払うことになったこと、丁山の事務所には右ニコスカードの売主はいなかったこと、等を供述した。

カ 翌三日、愛宕署長は、原告ら三名を偽造有価証券行使・詐欺未遂の被疑者として東京地方検察庁検察官に送致し、右検察官は、同日東京地方裁判所裁判官に対し、原告ら三名の勾留を請求し、翌四日、勾留状が発付され、原告ら三名は勾留された。

キ 同月八日、愛宕署員の取調べに対し、丙沢は、右オの供述を維持し、乙川は、戊田が丁山の事務所にいたことを窺わせる供述をした。

翌九日、長尾が原告を取り調べたところ、原告は、戊田や丁山と知り合った経緯について供述したほか、戊田は関西の山口組系の者だったと聞いているとか、ニコスギフトカードの流通経路について丁山から日本信販の事情まで聞く必要はないなどと言われたこと等を供述した。

ク 同月九日に逮捕された戊田を愛宕署員が取り調べたところ、戊田は、同月一日、元山口組系暴力団員である山川から五〇〇〇万円分のニコスギフトカードを担保に二〇〇〇万円を貸して欲しいと依頼され、丁山に伝えたこと、同日午後六時ころ、丁山の事務所で山川が丁山に本件偽造商品券を交付し、丁山が山川に別の部屋から持ってきた二〇〇〇万円を交付したこと、これに対し、山川が一五〇〇万円の領収書を作成して丁山に交付したこと、等を供述した。

また、翌一〇日、丁山は、愛宕署員に対し、同月一日、戊田が持参したニコスギフトカードを原告に交付し、原告が持参した二〇〇〇万円を戊田に交付したこと等を供述した。

ケ 同月一二日、愛宕署内に共同捜査本部が開設された。

また、同日、東京地方検察庁検察官は、東京地方裁判所裁判官に対し、原告三名に対する勾留延長を請求し、同日、右裁判官により、一〇日間の勾留延長が発令された。

コ 共同捜査本部の捜査官らは、右のような捜査の経緯等から、本件偽造商品券の購入経緯、購入方法、購入金額、偽造商品券の形状、大黒屋における原告の対応状況等に照らし、弁護士の経歴を持つ原告が、本件偽造商品券を真正なものと信じて購入したなどという原告の供述は不自然かつ不合理で信用できないと考えていた。

(2)  右に認定した本件における原告らの逮捕、取調べ、勾留及びその延長等の経緯に照らせば、本件広報に関与した共同捜査本部の捜査官らによる本件広報文中の「事仕の概要」等の事実についての認定判断は、これを真実であると信じるについて相当な理由があったものと認めることができるというべきである。

2(一)  なお、原告は、愛宕署が原告ら三名を本件事件における被害者の立場にあるとの心証を形成していたという事実があるにもかかわらず、その捜査結果を無視して行われた本件広報は違法なものであると主張し、右の主張に概ね沿う甲一七号証(原告の弁護人であった弁護士貞友義典作成の陳述書)、一八号証(原告作成の陳述書)及び原告本人の供述がある。

しかし、基礎となる事実3のとおり、本件広報がされたのは、原告の勾留延長の裁判がされた五月一二日から未だ二日しか経過していない同月一四日のことであること、原告は同月一八日には釈放されているものの、その時点では処分は保留されたままであったことや、右証拠と反対趣旨の乙一号証(本件事件の捜査官であった長尾純逸作成の陳述書)、証人長尾の証言に照らし、右証拠は採用することができず、他に右の主張を認めるに足りる証拠はない。

(二)  また、原告は、本件広報文の見出しに「元弁護士等による」と記載し、逮捕被疑者欄に原告の職業として「元弁護士」と記載したことも、本件広報の違法性を基礎付けると主張する。

しかし、本件事件は、五〇〇枚余りの額面一万円の偽造商品券が金券ショップに持ち込まれた事件であり、その性質上社会的インパクトは小さくない事件であること、社会正義の実現を使命とする弁護士という職業を考えると、元弁護士という経歴を持つ者がそのような事件に関与していたということも、社会的に正当な関心事となること等を考慮すれば、本件広報文において原告が元弁護士であることを指摘したことは、何ら本件広報の違法性を基礎付けることにはならないというべきである。

(三)  さらに、原告は、五月一三日には弁護人による接見等禁止解除の申立てが行われ、一五日には東京地方裁判所裁判官により接見等禁止全部解除の決定がされたこと、乙川及び丙沢が一五日に釈放されたことから、本件広報がされた一四日当時、捜査官は原告ら三名については犯罪事実の証明がなく、釈放しても構わないと考えていたのであり、そのような時点で原告の実名を公表して行われた本件広報は違法なものであるとも主張する。

しかし接見等禁止解除の決定がされたからといって犯罪に対する嫌疑がなくなったとはいえないことは言うまでもなく、原告が釈放されたのも処分保留のままであったのであり、犯罪に対する嫌疑がなくなったからではないことは前示のところから明らかであって、右の時点で原告の実名を公表してした本件広報が違法であるということはできない。

なお、確かに、原告の弁護人により接見等禁止解除の申立てがあった後で、右解除決定がされる直前の逮捕後約二週間が経過した後の五月一四日の時点で本件広報を行ったことは、それだけを見ると、やや時期を逸したものであるとの感が否めないではない。しかし、証人長尾の証言及び弁論の全趣旨によれば、本件事件の捜査官らは、本件事件について、原告ら三名を逮捕した時点から広報の必要性は認めつつも、一方で、暴力団ないし組織的な偽造グループが関与しているものと認められる事件であったことから、これらの背後関係等を解明するために秘密裏に捜査を進めていたところ、五月一二日の日本テレビによる報道をはじめとして、原告が逮捕されたとの報道が相次いだため、共同捜査本部として、本件事件についての広範な情報を得たり、二次被害を防止するという方向に切り換え、本件広報を行うこととしたものと認められるのであって、右の時点になって本件広報を行った点についても、それが不適切な判断であったと認めることはできない。

3  以上によれば、本件広報に関与した共同捜査本部の捜査官らに故意または過失がないから、結局、不法行為は成立せず、被告東京都は損害賠償責任を負わないので、原告の被告東京都に対する請求は理由がないことになる。

二  被告日本テレビとの関係

1  被告日本テレビによる報道

被告日本テレビによる本件事件の報道は、前示の基礎となる事実4(一)のとおり、六回にわたって行われたものであり、その内容の概要は別紙二記載のとおりであるところ、そのうち①ないし④は、本件広報が行われる前にされたものである。そして、被告日本テレビによる報道は、いずれも原告が、本件事件が発生する前の別の機会に撮影を許諾し、日本テレビによるインタビューに応じている際の映像を用いたものである〔甲一号証、弁論の全趣旨〕

2  名誉毀損の成否について

(一) 被告日本テレビによる報道は、いずれも原告が偽造有価証券行使などの疑いにより逮捕されたという事実に関するものであるから、右の報道は、原告の名誉を毀損させるものであることは明らかである。

しかし、前示一1(一)のとおり、一般に、ある者の名誉を毀損する行為であっても、それが公共の利害に関する事実について、専ら公益を図る目的の下にされた場合において、摘示された事実が真実であることが証明されたときは、その行為は違法性を欠き、不法行為とはならないものというべきであり、また、摘示された事実が真実であることが証明されなくても、その行為者においてその事実を信じるについて相当な理由があるときには、右行為には故意または過失がなく、不法行為は成立しないものと解するのが相当である。

そして、右の被告日本テレビによる報道は、偽造有価証券の行使等に関する犯罪行為についてのものであるから、公共の利害に関する事実についてのものであるということができ、かつ、専ら公益を図る目的の下にされたものと推認することができる。

また、甲七号証及び弁論の全趣旨によれば、右の犯罪行為に関する報道の内容は、いずれも、被告日本テレビの取材記者による捜査官に対する取材及び本件広報の内容に基づくものと推認されるところであるから、特段の事情がない限り、右の犯罪行為に関する事実を真実であると信じたとしても相当の理由があったものと認めることができる。

(二) 原告は、被告日本テレビによる報道は、単に原告が逮捕、勾留されたという事実にとどまらず、原告が犯人であると印象付けるに十分な報道をしたものであると主張する。確かに、ある人物が一定の犯罪事実に関して逮捕されたとの報道がされた場合、一般視聴者は、その人物がその犯罪を犯したと受け止めがちであることを否定できないから、逮捕の事実を報道する場合には、未だ被逮捕者は犯罪の疑いがかけられて捜査の対象とされている段階であることを意識した表現方法をとること等により、一般視聴者が被逮捕者が犯人であるとの断定的な印象を抱くようなことがないように配慮することが要求されるものと言うべきである。

しかし、被告日本テレビによる報道のうち、共同捜査本部による本件広報が行われる前に放送された①ないし④は、原告ら三名により偽造商品券が金券ショップに持ち込まれた事実及び原告ら三名が偽造有価証券行使などの疑いによって逮捕された事実に続けて、原告が取調べに対して「偽造だとは知らなかった」と否認しているとの事実を報道したものであって、一般視聴者が原告が犯人であるとの断定的な印象を抱くことがないように配慮した報道の方法がされているというべきであり、一般の視聴者に、ことさら原告が犯人であると印象付けるような報道をしたものと認めることはできない。また、本件広報の後に報道された⑤及び⑥も、本件広報文の内容を逸脱するような内容を含むものではなく、特に、⑤は、原告ら三名より後に逮捕された丁山と戊田及び指名手配された山川に焦点を当てた内容のものであって、ことさら原告が犯人であると印象付けるような報道であるとは認めがたいものである。なお、原告が元弁護士で、所属弁護士会から除名処分を受けた者であるとの事実を付加することにより、原告が犯人であると印象付けられると評価することもできないことは明らかである。

また、原告は、被告日本テレビは、原告の弁護人に原告の弁解内容を問い合わせるなどの調査義務を尽くすべきであったなどと主張するが、報道機関としては、その内容の信頼性について疑問を生じさせるような特別の事情がない限り、捜査機関からの取材により、逮捕事実の存否や被疑事実の内容を調査確認すれば足りるというべきである。

さらに、原告は、報道時期が緊急性を欠くものであったとも主張するが、前示一2(三)のとおり、共同捜査本部は、本件事件の性質を考慮して、原告らの逮捕後も秘密裏に捜査を進めていたものと認められるのであり、被告日本テレビが本件事件を覚知したのが原告の逮捕から一〇日以上経過した後であったからといって、その時点で報道することが相当性を欠くと評価することはできない。

(三) 右のとおりであるから、原告の名誉毀損に関する主張は、理由がない。

3  肖像権侵害の成否について

(一)  何人も、みだりに自己の容貌や姿態をその意に反して撮影され、撮影された肖像写真や映像を公表されない人格的な権利、すなわち肖像権を有しているものと解するのが相当であり、これを侵害した場合には原則として不法行為が成立するものというべきである。

そして、被告日本テレビによる報道における映像の使用が原告の許諾を得ずにされたものであることは、当事者間で争いがない。

もっとも、他人の肖像権を侵害する行為であっても、それが表現の自由の行使として相当と認められる範囲内においては、違法性を欠き、不法行為は成立しないものと解すべきである。そして、他人の肖像権を侵害する行為が表現の自由の行使として相当と認められるためには、その表現行為が、公共の利害に関する事実その他社会の正当な関心の対象である事実と密接に関係するものであり、かつ、その公表内容及び方法がその表現目的に照らして相当なものであることを要するものというべきである。

(二) そこで、被告日本テレビによる報道における原告の映像の使用が、右の観点から、表現の自由の行使として相当と認められる範囲内にあるものか否かについて判断する。

前示1のとおり、被告日本テレビによる報道においてはいずれも原告の映像を用いているところ、これらはすべて同一の映像であって、その映像は、原告が、本件事件が発生する前の別の機会に撮影を許諾し、被告日本テレビによるインタビューに応じている場面を撮ったものであり、右の映像は、放送に用いられることを予定して撮影されたものと推認される。

そして、右映像の使用は、被告日本テレビによる報道における音声部分と一体となって、原告が本件事件の被疑者として逮捕された事実を報道しようとするものであるところ、右の表現行為が、犯罪行為の報道という公共の利害に関する事実の報道と密接に関係し、これと一体となっているものであることは明らかである。

そして、右映像が、本件事件についての報道に用いることを予定して撮影されたものではなく、また、原告がそのような用途に用いることを許諾したものでもないことは前示のとおりであるが、少なくともテレビ放送に用いられることを前提として原告が撮影に応じたものであって、その映像の内容もこれがテレビで放映されることにより原告が格別の不快感等を覚えるようなものではない。そうであるとすれば、右映像の公表された内容及び公表の方法は、本件事件の被疑者として原告が逮捕されたとの事実を報道するために使用するという公表の目的に照らし、相当なものであると解されるところである。

したがって、被告日本テレビによる報道における右の原告の映像の使用は、表現の自由の行使として相当と認められる範囲内にあるものというべきであり、違法性を欠くから、不法行為を構成するものではない。

(三) 右のとおりであるから、原告の肖像権侵害を理由とする被告日本テレビに関する主張は、理由がない。

4  プライバシー侵害の成否について

(一) ある者の経歴、たとえば、かつて弁護士という社会正義を実現することを使命とする職業にあった者が、所属する弁護士会から除名処分を受けたというような経歴は、その者の名誉や信用に直接関わる事柄であって、一般人の感性を基準とすると公開を欲しない事柄であるといえるから、その者は、原則として、みだりに右の経歴等に関わる事実を公表されないことについて、法的保護に値する利益を有するものというべきであり、右の利益を侵害し、右のような経歴等に関わる事実をみだりに公表する行為は、プライバシーの侵害として不法行為を構成するものというべきである。

しかし、ある者の経歴に関わる事実を公表することも、それが公共の利害に関する事実に密接に関係するなど、表現の自由の行使として相当と認められる範囲内においては、違法性を欠き、不法行為は成立しないものと解すべきである。

(二) そこで、被告日本テレビによる報道において原告が元弁護士であったなどの経歴を公表したことが、表現の自由の行使として相当と認められる範囲内にあるものか否かについて判断する。

前示1のとおり、被告日本テレビによる報道は、いずれも原告が元弁護士であることを公表し、そのうち①ないし④の報道は、原告が所属する第二東京弁護士会から除名処分を受けたことを、さらに、②及び④の報道は、除名処分の理由まで、それぞれ公表したものである。そして、このような原告の経歴は、一般人であれば公表されることを欲しない事柄であることは明らかであるから、原告は、これをみだりに公表されないという法的利益を有するものというべきである。

しかし、弁論の全趣旨によれば、被告日本テレビが、右の一連の報道において原告の右のような経歴を公表したのは、本件事件が高額で多数の偽造商品券を金券ショップで換金しようとしたというもので、商品券に対する社会的信用を害しかねない犯罪行為であるのに対し、弁護士は、その使命に照らし、法律を遵守すべき立場にあり、一般に社会的信用が高いとされている職業であるところ、そのような社会的立場にあった者が本件事件の被疑者として逮捕されたからであると推認されるところである。そして、本件事件の被疑者として逮捕された者が、元弁護士という経歴を有するという事実及び所属弁護士会から除名処分を受けたという経歴を有し、その処分の理由が委任者である会社に巨額の損失を与えたことにあるという事実は、社会の正当な関心の対象となる事実であり、かつ、本件事件という公共の利害に関する事実に密接に関係する事実であるというべきである。また、右の事実を公表した被告日本テレビによる報道の内容や方法について、特に相当性を逸脱したものと認めるべき点は見当たらない。

したがって、被告日本テレビによる報道における原告の右の経歴に関する事実の公表は、表現の自由の行使として相当と認められる範囲内にあるものというべきであり、違法性を欠くから、不法行為を構成するものではない。

(三) 右のとおりであるから、原告のプライバシー侵害に関する主張は、理由がない。

5  以上のとおり、原告の被告日本テレビに対する請求は、いずれも理由がない。

三  被告東京放送との関係

1  被告東京放送による報道

被告東京放送による本件事件の報道は、前示の基礎となる事実4(二)のとおり二回にわたって行われたものであり、その内容の概要は別紙三記載のとおりであるところ、そのうち⑦は、本件広報が行われる前にされたものである。

また、被告東京放送による報道は、いずれも原告をその許諾を得ずに隠し撮りにより撮影した映像を使用しており、そのうち、別紙三記載の「原告の映像A」は、原告の自宅の玄関前と思われるところから原告が辺りの様子を窺うようにしてトレーナーのような普段着で歩いて出てくる場面を撮影したもの、「原告の映像B」は、野球帽のようなものをかぶった原告が駐車中の車の背後を何かを警戒するような様子を示しながら移動しているところを撮影した全体的に暗い画像のものである。〔甲三号証〕

2  名誉毀損の成否について

被告東京放送による報道が原告の名誉を毀損するものとして不法行為を構成するか否かについてみると、前示二2(一)の被告日本テレビによる報道についての判断と同様の理由により、結局、不法行為は成立しないものというべきである。

なお、被告東京放送による報道は、右1のとおり、隠し撮りされた映像を使用したものであるところ、原告は、右映像の放映は原告が犯罪者であると印象付けるものであると主張する。確かに、右映像の放映は、後記3のとおり、肖像権の侵害という観点からは違法といわざるを得ないものであるが、被告東京放送による報道の音声部分は、あくまで原告らが偽造有価証券行使などの疑いで逮捕されたとの事実を伝えるものであり、右映像の放映をも併せて、被告東京放送による報道が、全体として原告が犯罪者であるとの事実を摘示したものであるとまで評価することはできず、また、一般の視聴者に原告が犯罪者であるとことさら印象付けるものであるとも評価することはできない。

右のとおりであるから、原告の名誉毀損に関する主張は、理由がない。

3  肖像権侵害の成否について

(一) 前示1のとおり、被告東京放送による報道⑦及び⑧はいずれも原告の映像を用いており、⑦では「原告の映像A」及び「原告の映像B」が、⑧では「原告の映像A」が用いられているものである。そして、右二通りの映像は、いずれも原告を隠し撮りにより撮影したものである。

ところで、右の報道において原告の映像を使用すること自体は、前示二3(二)の被告日本テレビによる報道における映像の使用と同様、公共の利害に関する事実である原告の逮捕という事実の報道と密接に関係しこれと一体となっているということができる。

しかし、その放映の内容及び方法についてみると、これが撮影された場所は、原告の自宅付近であると窺われ、未だ原告の私的生活における行動の領域に属する場所であると評価できること、これらの映像上、一見して原告がその姿を報道機関によって撮影されることを望んでいない様子が明らかであること、原告が他人との接触を前提としない普段着姿のまま撮影されているなど、これが一般に放映されることで原告が不快感を抱くものと容易に予測できる映像であること、「去年除名となった元弁護士」との音声部分と一体のものとして一般の視聴者の視覚に止まることにより、原告の右のような属性を必要以上に視聴者に強く印象付けかねないものであること、一方、本件事件は未だ捜査段階にあり、原告は被疑者として勾留されているにすぎないこと、等の諸事情を考慮すると、原告の映像の放映内容及び放映方法は、原告が本件事件の被疑者として逮捕されたとの事実を報道するとの放映の目的に照らせば、映像使用として、相当と認められる範囲を逸脱したものといわざるを得ない。

したがって、被告東京放送の報道における右の原告の映像の使用は、表現の自由の行使として相当と認められる範囲を逸脱し、原告の肖像権を侵害するものとして不法行為を構成するものというべきである。

(二) そして、原告は、右の被告東京放送の不法行為により、相当の精神的苦痛を被ったものと認められるところ、報道に使用された映像が原告の許諾なく隠し撮りされたものであり、私的な生活の一局面を映したものであること、撮影された本件事件の被疑者であるという原告について、元弁護士であるとの属性と相まって一般の視聴者に必要以上の印象を与えるものであること等、前示の認定説示に係る諸事情を総合考慮すれば、原告が受けた右の苦痛に対する慰謝料の金額は、五〇万円をもって相当と認める。

4  プライバシー侵害の成否について

被告東京放送による報道が、原告が元弁護士であったなどの経歴等に関わる事実を公表されないことについての法的利益を侵害する行為として不法行為を構成するか否かについてみると、前示二4(一)及び(二)の被告日本テレビによる報道についての判断と同様の理由により、不法行為を構成するものではないというべきである。

右のとおりであるから、原告のプライバシー侵害に関する主張は、理由がない。

5  以上のとおり、原告の被告東京放送に対する請求は、被告東京放送に対し、不法行為に基づく損害賠償として五〇万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余の請求はいずれも理由がない。

四  被告朝日放送との関係

1  被告朝日放送による報道

被告朝日放送による本件事件の報道は、前示の基礎となる事実4(三)のとおり行われたものであり、その内容の概要は別紙四記載のとおりであるところ、これは、記者による取材結果の報告という形式により、一部、原告の顔写真を放映しながら約三分一〇秒間報道されたものである。〔甲五号証〕

2  名誉毀損の成否について

被告朝日放送による報道が原告の名誉を毀損するものとして不法行為を構成するか否かについてみると、前示二2(一)の被告日本テレビによる報道についての判断と同様の理由により、結局、不法行為は構成しないものというべきである。

なお、原告は、被告朝日放送による報道の音声部分には、原告ら被疑者五人を「犯行グループ」と呼び、「容易に換金できるものとみて犯行に及んだ」とのコメントが付されている部分があり、これは、共同捜査本部による本件広報の内容を逸脱した憶測に基づく事実の摘示であり、これらにより、被告朝日放送による報道は、原告が犯人であると印象付けるものであると主張するようである。確かに、共同捜査本部による本件広報には、右のコメントのような部分はなく、右のコメントは記者の取材に基づいた推測を述べたものと窺われるところである。しかし、右の推測は、偽造商品券を金券ショップで換金しようとしたという本件事件の犯罪行為の態様に照らせば、合理性を欠く不当なものとまではいえない上、被告朝日放送による報道においては、逮捕された被疑者らは否認しているとの事実も伝えているところである。また、「犯行グループ」との呼称も、本件事件が被疑者らの共謀によるものとして広報されていることに照らせば、単に被疑者らをひとまとめにして指そうとしたものに過ぎないということができるのであり、ことさら原告が犯人であると断定しようとした趣旨のものと評価することはできない。

右のとおりであるから、原告の名誉毀損に関する主張は、理由がない。

3  肖像権侵害の成否について

前示1のとおり、被告朝日放送による報道は、原告の顔写真を映像として放映したものであるが、甲五号証によれば、右の顔写真は、正面を向いた原告の顔を白黒写真で撮影したものであり、画面の右上に小さく映されているものである。そして、原告は、右写真を本件事件についての報道で用いることについて許諾したものではないものと推認されるところであるが、前示二3(二)の被告日本テレビによる報道についての判断と同様の理由により、右の原告の写真の使用は、表現の自由の行使として相当と認められる範囲内にあるものというべきであり、違法性を欠くから、不法行為を構成するものではない。

右のとおりであるから、原告の肖像権侵害に関する主張は理由がない。

4  プライバシー侵害の成否について

被告朝日放送による報道が、原告が元弁護士であったなどの経歴等に関わる事実を公表されないことについての法的利益を侵害する行為として不法行為を構成するか否かについてみると、前示二4(一)及び(二)の被告日本テレビによる報道についての判断と同様の理由により、不法行為を構成するものではないというべきである。

右のとおりであるから、原告のプライバシー侵害に関する主張は、理由がない。

5  以上のとおり、原告の被告朝日放送に対する請求は、いずれも理由がない。

第四  結論

以上によれば、原告の被告東京放送に対する請求は、被告東京放送に対し、不法行為に基づく損害賠償として五〇万円及びこれに対する不法行為の後の日(訴状送達の日の翌日)である平成一〇年七月一一日から完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、被告東京放送に対するその余の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却し、原告の被告東京都、被告日本テレビ及び被告朝日放送に対する請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条、六四条本文を、仮執行の宣言について同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官川勝隆之 裁判官坪井宣幸 裁判官澤村智子)

別紙一〜四<省略>

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